建物の取壊し費用は必要経費になるのか ― 実務の取扱いとその考え方をめぐって

はじめに

不動産の賃貸業を行っていると、
建物の老朽化や事業の見直しにより、建物を取り壊す場面に直面することがあります。

その際、実務上しばしば問題となるのが、
建物の取壊しに要した費用を、不動産所得の必要経費として扱えるのか
という点です。

建物の取壊し費用が問題となる背景

建物の取壊し費用については、所得税法37条に基づき必要経費性が判断されますが、
取壊しが行われる時点では、

  • 賃貸借契約がすでに終了している
  • 取壊し自体が新たな収入を直接生まない

といった事情があり、
業務との関係をどのように評価するかが一義的には定まりません

この点が、建物の取壊し費用をめぐる議論の出発点といえます。


従来の考え方|取壊し目的に着目した判断

従前の実務では、建物の取壊し費用について、
「何の目的で取り壊したのか」に着目した整理が行われてきました。

例えば、

  • 業務用建物を取り壊し、建替後も業務用とする場合
  • 業務用建物を取り壊し、自宅として建て替える場合
  • 譲渡のために建物を取り壊す場合

など、取壊しの目的に応じて、
必要経費、家事費、譲渡費用として区分する考え方です。


実務で示された「業務清算基準」

一方、近年の実務では、これとは異なる整理も示されています。

賃貸業を廃止し、

  • 廃業に伴って速やかに解体工事が行われたこと
  • 解体までの間、家事用に転用されていないこと

などが認められる場合には、
建物の取壊し費用を、業務の清算に伴う支出として必要経費に算入できる
との取扱いです。


私の論文で検討している視点

私の論稿「建物の取壊し費用の必要経費性」(第38回日税研究賞入選)では、上記のような実務も踏まえたうえで、

  • 取壊し目的基準の理論的根拠
  • 業務清算基準と法令・判例との関係
  • 同じ所得税法37条に基づく
    固定資産税・借入金利息との整合性

といった点を中心に、整理を行っています。


森重論文による整理と見解

この点について、その後、
税務大学校論叢第90号において、 森重良二氏が
建物の取壊し費用の所得税法上の取扱いについて」と題する論文を公表されています。

同論文では、

  • 建物の取壊し費用を「期間対応の費用」と捉え
  • 必要経費該当性は
    • 業務との直接的関連性
    • 事業の遂行上の必要性

といった観点から、
個別具体的事情に即して客観的に判断すべきと整理されています。

また、森重氏の論文では、
建物の取壊しを「賃貸業に係る残務処理的行為」と評価しつつ、
そのことから直ちに、
取壊しまでの期間に発生した固定資産税や借入金利息の必要経費性を導くものではない
との見解が示されています。


おわりに

建物の取壊し費用の必要経費性については、
実務上は一定の取扱いが行われているものの、
その考え方は依然として発展途上の部分があるように思われます。

今後、取壊し事例が増加する中で、
残務処理期間が長期に及んだ場合の評価など、
さらなる整理が求められる場面も想定されます。

私の論稿「建物の取壊し費用の必要経費性」(日税研究賞入選論文集38号)、
これらの問題を考える際の一つの資料となれば幸いです。
なお、税研 187号に掲載された私の論稿「建物の取壊し費用の必要経費性(要旨)」は、国立国会図書館デジタルコレクションでご覧いただけます。

本コラムをご覧いただきありがとうございました。

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